大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(う)1220号 判決

被告人 米山君典 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

弁護人遠藤徳雄の論旨第二点について。

論旨は要するに、本件告発書によつては本件犯則物件が米国製ドロツプ(ライフ、ゼバーキヤンデー)であることを確認し難く、また右告発書には犯則物件の逋脱額の記載がなく、告発の実体を具備しないから本件告発は無効であり、かかる無効の告発に基く本件起訴は訴訟条件を欠く不適法なものであるに拘らず、公訴棄却の裁判をしなかつた原判決は違法であるというにある。よつて記録を調査するに、本件告発書には犯則物件として米国製ドロツプ(ライフ、セバーキヤンデー)二〇〇ケース(この到着価格、関税目下鑑定中)と記載してあるから、本件告発は米国製ドロツプ(ライフ、セバーキヤンデー)二〇〇ケースの犯則事実について告発したものであることは明らかであり、ただ右告発書には犯則物件の到着価格及び関税は目下鑑定中とあるだけで逋脱額の記載がないことは所論のとおりであるが、犯則者の氏名、犯則の日及び場所のほか犯則事実として不正な方法により関税を逋税した具体的事実を記載し且つ犯則物件として米国製ドロツプ(ライフ、セパーキヤンデー)二〇〇ケースと記載してあるのであつて、かように関税逋脱者の氏名、犯則の日及び場所、犯則の方法、犯則物件の品名、数量が具体的に記載されている以上、たとえその逋脱額が記載されていなくても関税法違反事件の告発としては有効なものと解するを相当とする。けだし昭和二十九年法律第六十一号による改正前の関税法第九十四条によれば、税関長の通告処分の場合には、罰金相当の金額、没収に該当する物品若しくは懲収金に相当する金額を確定して通告をしなければならないから、先ず当該犯則物件の価格及びこれに対する関税額を明確にしなければならないが、前記改正前の関税法第九十七条によれば、税関長は、通告処分をすることが困難と認めるとき、若しくは通告の旨を履行する能力がないと認めるとき又は情状が懲役刑に処するを相当と思料するときは、直ちに告発をすることを要するのであつて、通告処分をするか、あるいは直ちに告発するかは税関長の裁量に委ねられており、告発の前提として必ず通告処分をしなければならないものではない。そして告発は犯則事実の存在を所轄機関に告知し、公訴権の発動を促す手段であるから、告発の内容は当該犯則事実を特定し得る程度に事実を明示すれば足るからである。そして本件告発書に記載されているところは前記のとおりであるから十分に犯則事実を特定し得るものと解せられる。また本件は、司法警察員等が被告人等その他の関係人を取調べた上、右犯則の事実ありとして本件告発に及んだものであること一件記録に徴して明らかであるから、本件告発当時犯則物件が転売等のため存在しないからといつて本件告発の違法無効を来たすものではない。それ故本件告発が無効であることを前提とする論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 岩田誠 渡辺辰吉 司波実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例